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１歳半の時にかかった病気が元で、
見る事も聞く事も話す事も出来ない三重苦を背負い、
動物のように生きるしかなかった少女ヘレン・ケラー。
人間が持つ５感の内、匂いと肌の感触だけで、世の中にあるすべて
の物に、名前が付いている事を教えるのは、至難の業です。
その少女に、言葉には意味がある事を教えて、人間としての自覚を
呼び起こした女教師サリバン先生は、奇跡の人と呼ばれました。
この伝記を１９５９年に戯曲化したウイリアム・ギブスンと、
プロデューサーのフレッド・コーは、監督にアーサー・ペンを、
サリバン先生に、舞台と同じアン・バンクロフトを、
ヘレンに、舞台と同じパティ・デュークを配して映画化したのが、
オリジナル・モノクロ版の「奇跡の人」(1962)です。
そして、ヘレン・ケラー生誕１００年記念として、同じ脚本家、
同じプロデューサーによって再映画化されたカラー作品が、
この映画「奇跡の人」(1979)です。
アメリカでは、テレフィーチャーとして放映されましたが、
日本では、劇場公開されています。
１５歳の時の前作で、少女ヘレンを演じたパティ・デュークが、
結婚してパティ・デューク・アスティンとなり、
３２歳でサリバン先生を、堂々と演じています。
前作で主役を演じた俳優が、再映画化の際にゲスト出演するのは、
良くあるケースです。しかし、前作の２大主役の一人が、
役柄を替えて再び主役を演じるのは、非常に珍しいケースです。
今回、少女ヘレンを演じるのは、前作と同じ１５歳のメリッサ・
ギルバート。当時、日本でも放映されていた人気テレビシリーズ
「大草原の小さな家」の主役で人気者となりました。
洋画雑誌「ロードショー」の人気女優ランキングで、
テイタム・オニール、ジョディ・フォスターとともに、
ランキングされていた人気少女スターです。
伝記の再映画化では、大胆な解釈変更は出来ないので、
キャスティングの妙で旧作との違いを、表現しています。
アン・バンクロフトのサリバン先生は、実年齢の３０歳とは
思えない、ベテラン教師のイメージがありました。
モノクロの画面で、その印象を強く感じさせました。
しかし、パティ・デューク・アスティンのサリバン先生は、
若くて怖いもの知らずであり、疲れを知らぬひたむきな情熱を、
思い切りぶつけている印象を強く持ちました。
それは、パティ・デュークが旧作で少女ヘレンを演じている事に
よる先入観もあると思います。私は、旧作をテレビ放映で見た
５年後に、この映画を劇場で見ているからかも知れません。
今回、見直してみると、パティ・デューク・アスティンの身長と、
メリッサ・ギルバートの身長がほぼ等しい事で、サリバン先生と
少女ヘレンが、同じ視線で対峙している印象を受けました。
少女時代に盲目だったサリバン先生の実像と、旧作で少女ヘレンを
演じたサリバン先生の虚像のイメージが一体となり、
同じ目的に向かって突き進む二人の視線が、同じ方向を向いている
事が、奇跡を生んだと思わせる映画に仕上がっています。
また、ヘレンを過保護に育てた両親と、サリバン先生との対立、
そして和解も、より深く描かれれています。
共働きが増えて子供と接する時間が減り、子供が真に求めるものが
判りにくいため、両親が過保護になりがちな現代。
教師がサラリーマン化し、マニュアル通りの教育しか出来ない現代。
両親と教師が一体となって、初めて理想の教育が出来る事を、
改めて教えてくれる映画です。ビデオ化もＤＶＤ化もされていない
この映画は、そんな現代だからこそ、ＤＶＤ化して欲しい作品です。
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