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１９６４年開催の東京オリンピック男子１００００ｍ競走で、
無名の選手ビリー・ミルズが、アメリカ人初の金メダルを獲得した
実話を基に、彼の半生を描いた作品です。
調べたら、この競技では現在に至るまで、
アメリカ人唯一の金メダリストでした。
私はまだ５歳だったので記憶にありませんが、
４００ｍのトラックを２５周するこの競技のラスト１周での、
世紀の大逆転劇を覚えている年配の方もいらしゃると思います。
トップを走る当時の世界記録保持者ロン・クラークを追い抜こうと
したビリー・ミルズが、クラークの肘で外に弾き出されます。
２位に付けたガムーディにも突き飛ばされて、
大きく遅れをとったミルズに優勝の目は無いと誰もが思った瞬間、
猛烈なラストスパートをかけて二人を抜き、
ミルズがトップでゴールを切りました。
このラスト１周を含め、レース展開が克明に描かれていて、
この映画のハイライトになっています。
１周終わる毎に旗が降りるカットと、肘鉄での妨害は、
「ベン・ハー」(1959)の有名な戦車競争シーンを連想します。
１９８４年のロサンゼルスオリンピックに合わせて日本公開された
映画であり、前年にアカデミー作品賞を受賞して公開され、
大ヒットした「炎のランナー」に続いての、オリンピック陸上競技
を扱った映画です。如何に速く走るかをテーマにした映画だと思い
映画館に足を運びました。
確かに、ラストの競技シーンは、興奮が盛り上がる展開でした。
しかしそれ以上に、インディアンに対する差別から生じる主人公の
孤独と、それを乗り越えて人間的に成長する主人公に焦点を当てた
青春映画に仕上がっていました。
ビリー・ミルズを演じるロビー・ベンソンは、
当時を代表する青春スターです。「ワン・オン・ワン」(1977)では、
バスケットボール選手の主人公を演じ、
「アイス・キャッスル」(1978)では、フィギュアスケートの
主人公の相手役のホッケー選手を演じていて、
青春スポーツ映画にかかせない存在でした。
「ジェレミー」(1973)、「ビリージョー～愛の架け橋」(1976)で
共演したグリニス・オコーナーが、「リトル・モー」(1979)で、
テニス選手の実話を演じたことに触発されて、
この実話の映画化作品のオファーを引き受けたのでしょう。
「ワン・オン・ワン」では、少年っぽさが残るナイーブな大学生を
演じていましたが、２０代後半に主演したこの作品では、
髪を短く刈り上げ、引き締まった身体付きと褐色の肌で、
インディアンとの混血の青年を、精悍に演じています。
ビリー・ミルズは、天性の足の速さをカンサス大学のコーチに
認められ、スポーツ奨学生として入学します。
しかし、インディアンという理由だけで、仲間が集うクラブには
入れてもらえず、警察官からは「酋長」とからかわれる始末です。
インディアンへの偏見が、彼を孤独にして行きます。
９歳で母を亡くし、１２歳で父を亡くしたインディアン居留地での
生活が、細かく描かれているのが興味深いです。
亡き父の「お前は誇りを持って生きるんだ。」という言葉が、
ビリー・ミルズの心の支えとなります。
インディアン居留地での親友の自殺・コーチとの確執・
恋人との別れと、数々の苦難を克服するため、
ビリー・ミルズは、海兵隊に入って走り続けます。
走る事で人生を切り拓くのだと確信して。
ロビー・ベンソンが持つ天性の爽やかさに、
精悍さが加わった魅力で、重くなりがちなストーリーを、
クライマックスの１００００ｍ競走まで引っ張って行きます。
ビデオが入手困難となっている現在、
是非ＤＶＤ化して欲しい作品です。
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