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アイドル映画は、本来、主演するアイドル歌手のキャラクターに
合わせて原作が選択されるか、オリジナルストーリーが展開します。
その興行価値は、主演するアイドル歌手の人気に依存します。
1970年代は、アイドル映画を作れるほど人気があるアイドル
歌手の人数が限られていたので、この手法が通用しました。
まだ漫画を原作にしたアイドル映画が珍しかった時代です。
日本映画の斜陽化が進んだ1970年代後半から、
活況を呈していた角川映画は、1980年を境に大作路線から、
薬師丸ひろ子主演のアイドル映画中心の路線にシフトしました。
1970年代以上のアイドル全盛期を迎えた1980年代に、
各映画会社が、この動きを見過ごすはずはありません。
かくして、アイドル全盛時代の1980年代は、
アイドル映画も全盛期となり、量産されました。
量産されれば、題材が欠乏するのは当然です。
プロのベテラン俳優を前提にして書く事に慣れた脚本家や、
大人向けの小説は、演技が稚拙なアイドル映画には向きません。
それでも、ひと握りの超人気アイドルには、
そのキャラクターに合わせて原作を選択するか、
オリジナルストーリーを作る事が可能でした。
しかし、準A級からB級アイドルの主演映画にまで、それを展開
する事は困難でした。1970年代の準A級アイドル映画である、
栗田ひろみ・浅田美代子主演の「ときめき」(1973)、
森昌子主演の「としごろ」(1973)、
林寛子・浅野ゆう子主演の「恋の空中ぶらんこ」(1976)等が、
準A級アイドルの顔見せ映画であり、帯に短し襷に長しという
内容である事が、それを証明しています。
そこでアイドル映画の観客層をターゲットにした漫画(コミック)
を題材にした準A級アイドル映画が量産されるようになりました。
1970年代後半から、その傾向は現れ始め、
木之内みどり主演の「野球狂の詩」(1977)、
片平なぎさ主演の「瞳の中の訪問者」(1977)等がありますが、
1980年代になって、その傾向は顕著になりました。
「みゆき」も、コミックを題材にした準A級アイドル映画の1本
です。当時、単行本1000万部のベストセラーとなった
あだち充のコミックが原作であり、
アニメ化もされて放映中の時、この映画が制作されました。
あだち充は、テレビドラマ化された「陽当り良好」、
劇場アニメ化された「ナイン」(「みゆき」と同時上映)で、
当時から人気の漫画家であり、「タッチ」も連載中でした。
映画「みゆき」制作当時、この映画の主役3人の中で、
純粋にアイドル歌手と言えるのは、三田寛子だけです。
1982年にデビューしたアイドル歌手は、中森明菜・
小泉今日子を始め、堀ちえみ・石川秀美・早見優・
松本伊代、男ではシブがき隊と、人気アイドルが続出しました。
三田寛子も1982年デビューです。デビュー時こそ他の
人気アイドルと大差無いスタートを切りましたが、その後失速し、
「みゆき」が制作された1983年には、準A級アイドルに
格落ちした印象が否めません。
従って映画「みゆき」も、準A級アイドル映画と言えます。
しかしこの映画は、学園のマドンナ鹿島みゆきを演じる三田寛子
よりも、三田寛子にアタックしては振られる若松真人を演じる
永瀬正敏と、その妹である若松みゆきを演じる宇沙美ゆかりの方が、
魅力的に描かれています。
永瀬正敏は、映画「ションベンライダー」(1983)でデビューした
直後です。誤解が元で、三田寛子から何度平手打ちを喰らっても、
めげずに何度でも三田寛子にアタックする姿を見て、
思わず応援したくなります。三田寛子も、永瀬正敏に好意を持って
いるので、いつかはこの恋が成就されると、観客は思います。
宇沙美ゆかりは、映画「みゆき」のオーディションに合格し、
芸能界入りしました。クリッとした瞳にスラリと伸びた肢体、
ロリコン風な顔立ちは、原作の若松みゆきにピッタリという評判が
立ち、各種映画賞の新人賞を受賞しました。
翌年の歌手デビューに期待がかかりましたが、良い曲に恵まれず、
人気アイドルにはなれませんでした。ちなみに、テレビドラマ
「スケバン刑事」の第一候補は彼女でしたが、映画「V.マドンナ
大戦争」(1985)の主演と重なり、斉藤由貴に交代しました。
永瀬正敏が住む海辺の別荘に、1歳下の義理の妹である
宇沙美ゆかりが、カナダから夏の休暇で帰り、
6年ぶりに再会するところから、ストーリーが本格化します。
海外育ちの宇沙美ゆかりは、日常の仕草もあけっぴろげで、
思春期の永瀬正敏にとっては、刺激的です。
沖縄生まれで、褐色の肌とスポーティな肢体の宇沙美ゆかりが
演じると、開放的な仕草に説得力を持ちます。
永瀬正敏の周りの男どもは、宇沙美ゆかりに首ったけなので、
兄貴として妹を男どもから守っている内、宇沙美ゆかりを好きに
なっている自分に気が付きます。永瀬正敏は、宇沙美ゆかりが、
血の繋がった妹だと思い込んでいると信じていますが、
当の宇沙美ゆかりは、永瀬正敏から三田寛子を遠ざけようとして、
あの手この手を打ちます。宇沙美ゆかりも、永瀬正敏を、
好きになっていたのです。
しかも、永瀬正敏の前では可愛い妹を演じているので、
永瀬正敏は、気づかないままです。
鈍感な兄と、小悪魔的な妹の対比が鮮明に描かれ、
血の繋がらない兄妹の関係が、ストイックに表現されています。
映画の後半、同級生の鹿島みゆき(三田寛子)と、妹の若松みゆき
(宇沙美ゆかり)の誕生日が同じである事が判ります。
永瀬正敏は、どちらのみゆきを選ぶのか。
若干意味不明な人物が登場する井筒和幸監督の演出ぶりには、
余計な枝葉が付いています。
しかし、アイドル映画特有の愛嬌だと思い、無視して見れば、
1970年代アイドル映画の、青春の甘酸っぱい香りを、
1980年代の軽いテイストで味付けした作品に仕上がっています。
そのテイストは、あだち充の原作に負うところが大きいと思います。
若き日の永瀬正敏が演じる、直情型ではあるけれども、軽くて
優柔不断な性格の青年は、後のテレビドラマ「ママはアイドル」
(1987)で、小泉今日子から中山美穂に乗り換える姿に、
オーバーラップします。2~3年で引退した幻のアイドル
宇沙美ゆかりの魅力も、たっぷり見られます。
そして如何にもアイドル然とした三田寛子の姿。
是非、DVD化してもらいたいアイドル映画です。
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