|
男性が女装する映画は、沢山あります。
「お熱いのがお好き」(1959)では、女性楽団に紛れ込むため、
女装するトニー・カーチスとジャック・レモン。
「トッツィー」(1982)では、売れない俳優ダスティン・ホフマンが、
女装して役を掴み大ヒット。女装である事を公表出来なくなります。
「ミセス・ダウト」(1993)では、離婚した父親が子供に合うため、
家政婦に化けて奮闘する、ロビン・ウィリアムズ主演映画です。
いずれも、上質のコメディ作品でした。
コメディ作品に限らず、男性が女装する映画は多いですが、
逆に女性が男装する映画は珍しく、この映画や、
「恋に落ちたシェークスピア」(1998)ぐらいしか思い浮かびません。
ホモやレズ、性同一性障害は、先天的に備わっている特性であり、
ある目的のために女装あるいは男装する場合と異なります。
「Mr.レディMr.マダム」シリーズ(1978~85)や、そのリメイク
「バードケージ」(1996)では、ホモの夫婦が普通の夫婦に
見せかけるため、ホモの妻が女装するコメディです。
ホモと女装を組み合わせた、上手い設定でした。
「愛のイエントル」では、主演のバーブラ・ストライサンドが、
学問をするために、男装する映画です。
監督・制作・脚本・主題歌も担当した意欲作です。
よほどこの題材が気に入っていたのでしょう。
私がバーブラ・ストライサンドを見たのは、「追憶」(1973)が最初
でした。バーブラ演じる女性が政治的信念と、惹かれ合う男女間の
愛との狭間で葛藤する姿を、20年以上に渡って描いた名作でした。
バーブラの意思の強さが光る映画であり、ロバート・レッドフォード
演じる、美男子ではあっても世の中の流れに身を任せ、
冒険する事が出来ない男性と、好対照でした。
同じ題材の3度目の映画化となる「スター誕生」(1976)は、バーブラ・
ストライサンドの本職である音楽業界に舞台を移した作品であり、
歌手の卵が大スターに成長する姿を描くには、バーブラは大スター
過ぎました。見ているうちに、落ちぶれていくクリス・
クリストファーソンの方に、感情移入してしまいました。
その点を反省したのか、「愛のイエントル」では、メガネをかけた
地味なスタイルであり、20世紀初頭のポーランドに住むユダヤ人
のファッションも地味で、好感が持てます。
当時のユダヤ人の間では、学問をするのがタブーでした。
しかし、バーブラ演じるイエントルは、学問がしたくてたまらず、
父が死ぬと男に化けて他の町のユダヤ教神学校に入ります。
正体がばれないよう地味にしているイエントルは、他の学生達に
からかわれますが、助け舟を出した男と親友になります。
親友の恋人の父に見込まれたイエントルは、その彼女と結婚します。
親友が結婚に反対すると思いきや、イエントルを通して恋人と
交際出来ると言って、結婚に賛成する始末です。
結婚生活の中で、ついに自分が女である事を察知され、
親友に告白をするのですが、まるで相手にされません。
ついには、神をも恐れぬ奴と罵られます。
女性が社会で活躍する運動の先頭に立っていたバーブラ・
ストライサンドにとって、ウーマン・リヴの先駆けのような
ヒロイン像は、彼女の原点のように思えます。
だからこそ、一人で5役も担当して映画化したのでしょう。
そして、重要なシーンでは、ヒロインの心情の変化を、
バーブラが、その済んだ歌声で表現しています。
しかし、派手な踊りは無いので、ミュージカルとは一線を
画した映画に仕上がっています。
ストーリー的には、いくらでもコメディに出来る要素がありますが、
プロデューサーのバーブラは、敢えてコメディにはしませんでした。
コメディにすると、ウーマン・リヴの先駆けのようなヒロイン像が、
茶化されるからでしょう。興業的リスクを背負ってでも、
コメディにしなかったバーブラの英断に、拍手を送りたい映画です。
管理人への御意見・御要望は、を
クリックして下さい。
有料メルマガは廃止し、無料メルマガとして、2017年10月14日より、
新たに配信スタートします。下のボタンをクリックすれば、
まぐまぐの個別ページに移動し、無料メルマガ登録が出来ます。
へ
|
|